かたわぐるま
近江国甲賀郡または信濃に現れたと言う妖怪。
寛文の頃、片輪車が夜になると走りまわり、人々は夜になると外に出ず家の戸を閉ざすようになった。
片輪車のことを噂しただけでも、罵られたたられることさえあるというので、人々は家の中で静まり返っていた。
ある家の女が片輪車を戸の陰から覗き見ると、牽く人もいない片輪の車に美女が一人乗っていた。
女の家の前に止まると「我よりも我が子を見よ」と言い、慌てて寝所を見ると2歳の子供の姿が消えていた。
女は嘆き悲しみ「罪科(つみとが)は我にこそあれ小車のやるかたわかぬ子をばかくしそ」
と一首書いて戸に貼っておくと、その夜片輪車は歌を詠みあげ、
「やさしの者かな、さらば子を帰すなり、我人に見えては所にありがたし」
と言ってその後現れることは無かった。
参考
柴田宵曲「奇談異聞辞典」ちくま学芸文庫